Mottyの旅日記 Archive

Mottyが巡った場所の記憶と記録

熱田神宮

熱田神宮の本宮遠景

 古代より熱田台地に鎮座した神社で、その創建は記紀の時代というから、気の遠くなるような歴史を持つ。主祭神熱田大神で、相殿神天照大神素戔嗚尊(スサノオノミコト)、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)、宮簀媛命(ミヤスヒメノミコト)、建稲種命(タケイナダネノミコト)の5柱を祀る。御神体は、天叢雲剣から改名された草薙剣で、相殿の5柱は御神体と縁が深い。

 古代から鎮座する宮として社格は高く、尾張国三宮であり、延喜式では明神大社、かつ勅祭社16社のうちのひとつに数えられており、現在も神社本庁別表神社である。

 天叢雲剣は、素戔嗚尊ヤマタノオロチを退治した際にその尾から出てきたという神剣で、天孫降臨の時に天照大神から瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に渡され、やがて天皇家に伝わる武の象徴になったという。

 時代は下り、第12代景行天皇の治世、景行天皇の皇子日本武尊が東征の際に伊勢神宮から天叢雲剣を拝受し、駿河で火攻めを受けた時にこの剣で草を薙ぎ払って難を避けたことから、草薙剣の名が与えられた。

 日本武尊はこの東征の後、尾張尾張国造の娘宮簀媛と結婚したが、剣を置いたまま遠征に赴いた近江国伊吹山で病を得て、今の三重県鈴鹿川で没してしまう。こうして残された宮簀媛は、日本武尊の遺志を重んじ、あるいは日本武尊に奉斎を命じられていたことから、天叢雲剣を熱田の地に祀った。これが熱田神宮の創始であり、日本書紀によれば景行天皇43年のことという。また、熱田神宮の前身である熱田神社としての創建は、仲哀天皇元年頃、あるいは大化2年(646)とされる。

 この神宮創建以来、ほぼ遷されたことが無い御神体であるが、過去には、2度だけ外部に持ち出された。

 1度目は、天智天皇7年(668)の出来事で、新羅の僧道行が剣を盗み出し、新羅に持ち帰ろうとしたが、嵐で海を渡る事ができなかったという。剣は無事に回収されたが、そのまま宮中に留め置かれ、朱鳥元年(686)に天武天皇の病が神剣の祟りであるとされたことから、神宮に戻された。

 2度目は、太平洋戦争末期から終戦後で、最初は空襲からの疎開計画であったが、結局は戦争中に実施されず、終戦後にアメリカ軍による接収や破壊を免れる目的で計画が実行され、岐阜県水無神社へ約1ヶ月間、遷されている。ただし、元暦2年(1185)の壇ノ浦の戦いの際に、平清盛正室二位の尼と共に海中に沈んだままという説もあり、現在の御神体が古代から存在した本物なのかどうかはよく分からない。これに関しては、御神体が世に出る可能性はほぼ無いので、その真偽もほぼ永遠に闇の中ということでもあるのだが、神道の性質を考えると仕方のないことだろう。

 創建以降、神宮の大宮司尾張国造の子孫である尾張氏であったが、平安時代以降は、藤原氏やその子孫千秋氏が大宮司を務め、尾張氏権宮司となっていた。ちなみに、かの有名な永禄3年(1560)の桶狭間の合戦の際、熱田神宮で戦勝祈願をした織田信長は、その家中に千秋氏を抱えているほか、熱田神宮に出した書状に権宮司尾張仲安という名も出てくるなど、熱田神宮と繋がりが深い。また、桶狭間の合戦後にお礼として寄進した塀は、信長塀として今も残っている。

 本願寺比叡山を始め、寺や神社といった宗教勢力は権力を持ちやすく、諏訪氏阿蘇氏のように全国で武士化する宮司も少なくなかったが、そのような勢力を徹底的に弾圧した信長は、一般のイメージとは裏腹に、熱田神宮とは友好的であった。無宗教者として見られがちな信長であるが、熱田神宮との関係を考えると、違う側面が見えてくるのは面白い。

 熱田神宮を訪れて驚くのは、電車や多くの車が行き交う都会の喧騒の中に在りながら、今も巨大な境内を有し、周囲と境内との間に恐ろしいくらいの空気の差があるところだろう。境内の厳かな空気は、俗世から離れた斎(ユマワ)る場所という言葉が相応しく、まさに熱田の杜である。森ではなく、祭祀を表す示偏の杜であった。

 熱田神宮を見れば、神社にとって大事なのは社殿や付属する建物ではなく、静寂さと厳かさをもたらす杜なのだということがよく解る。この杜というものは、日本人の持つ感性に働きかけ、敬い奉るべきものだと感じさせる何事かの力があるのかもしれない。

 

最終訪問日:2010/12/27

 

 

大きな神社には、ほぼ必ず宝物殿があるんですが、熱田神宮にも宝物殿があります。

その歴史の中で寄贈や奉納された品々が、約6千点も収蔵されていて、御神体が剣であることから、中でも刀剣類が多いようですね。

この宝物の見学も、熱田神宮へ行く楽しみのひとつであったんですが、残念ながら訪れた日が年末の休館日であったため、見ることができませんでした。

次に行く時は、その辺りも調整して行きたいですね。